Story3

70mタワーを
備えたプラント
トラブルに真摯に対応した
先にあったのは
地図に残る仕事をした
達成感

入社21年のベテランでも
毎回違うプラントに携わる新鮮さがある

1998年に新卒で東洋エンジニアリングに入社し、2021年4月にテックプロジェクトサービスに移籍。なお、2016年から出向というかたちでテックプロジェクトサービスでのプロジェクトには関わっていた。
東洋エンジニアリング時代を含めプロジェクトを担当したのは医薬系の案件が多く、石油化学プラントを手掛けるのは初めて。数十億円台後半規模という大型案件のプロジェクトマネージャーとして、全体を統括する責任を負う。
発注元はエチレンの製造・精製をする石油化学会社。石油精製時に生成する「プロピレン」を、付加価値が高いポリマーグレードプロピレン「PGP」に高純度化する精留設備を建設する。「PGP」はポリプロピレンの原料として、包装材や繊維、自動車部品などに幅広く使われるため、純度が高い「PGP」を生産・販売することで、新たなビジネスを創出したいという期待が顧客にあった。
基本設計は親会社である東洋エンジニアリングと協同して実施。プラントの性能において東洋エンジニアリングのバックアップ保証があることが顧客の安心に繋がっていた。テックプロジェクトサービスは上流の設計からプラントの完成に至るEPC(Engineering設計、Procurement調達、Construction建設)を一貫して請け負い、関わった社員数はのべ約40名。担当する案件で過去最大規模のものだった。
「プロジェクトは1件1件違うので、想定外のことが起きる」ことがこの仕事の醍醐味と思っていたが、今回の案件はいままでにない「壁」が立ちはだかった。

EPCがスタートして次々と壁が立ちはだかる

まず、プロピレンの不純物除去時に排出される物質を、一定濃度以下にすることを保証するように新たに顧客から求められた。精留されるプロピレンや精留能力は、東洋エンジニアリングが保証することになっていたが、新たな保証が追加されたことで、東洋エンジニアリングのサポートなどを受けて条件を見直す必要があった。
更に、既設プラントと連携をすることで、運転状況により新設プラントの機器構成の順番を変更する必要もあった。基本設計で、機器の構成やフローの順番を固めていたが、EPCが始まりプラントを流れる成分の詳細をつめていくと、既設プラントに影響がでる物質が発生するため、機器の構成入れ替えは避けられないことがわかった。案件がスタートした途端、見直しになるとは。
プロセス全体のライセンスに関わることなので、東洋エンジニアリングにサポートを要請し、顧客の既設プラントにも精通した方にアドバイスをいただきながら、なんとか解決に繋げることができた。
遅れを取り戻そうと思っていたところに、顧客からコストダウンの要求が。運転に支障がない範囲で、バルブを減らすなど削減できる箇所の洗い出しを始めたので対処せざるを得ない。設計をする上で配管等が記載されたP&ID(配管計装図)を承認発行しては、コスト削減の検討内容を反映して書き換える作業が続く。当社のプロジェクトエンジニアリングマネージャーや設計担当と、何度話しあったかわからない。

70mタワーを設置するも
コロナ禍で予想外の事態に

建設の山場は、プロピレンを精留するために、高さ約70m、直径約5mのタワーを2本設置することだ。敷地内にタワーを搬入できる海上輸送用の専用ドッグがないため、近くの海釣りができる公園の土地を借りることに。顧客主導ではあるが、公園事務所や海上保安庁、公安関係、自治体と、交渉をしなくてはいけない。気が遠くなる作業だが、このタワーがないと純度が高いプロピレンの精留が叶わない。ここは正念場と、当社の担当者に顧客と一体となって関係者との交渉を続けるよう指示をした。
なんとか合意形成ができ、搬入の日となった。船から吊り上げられたタワーが、陸揚げされ台車に乗せられて敷地内に運ばれる。60〜70人のスタッフが海側と陸側に分かれて対応し1日がかりで作業をしてやっと1本が構内に搬入できた。その後、構内での事前段取り工事が行われ、大型クレーンにてタワーが立ち上がった時の達成感は半端ない。敷地内の風景が一変したからだ。
無事2本のタワーが設置されたが、全体のプロセスではやっと中間地点。その後、各種工事を順調に進めるも、最後の最後に、納期が遅れてしまうというとんでもないトラブルに見舞われる。
原因はタワーの周囲に設置される4機の熱交換器。大型の熱交換器を製造できる工場は国内にほとんどなく、スケジュールの関係で海外に発注した。熱交換器は高圧ガスの特定設備となり、現場設置後の最終検査を受ける必要があったが、設備の溶接部分に図面通りでない箇所があり合格がおりなかった。通常、設備の製造を海外に依頼する場合、当社の検査担当者が工場に張り付いて直接確認をするが、運が悪いことにCOVID-19の影響で、派遣することが出来ず、事前に問題を是正指導が出来なかったことが大きい。その結果、同じくCOVID-19の影響で、日本のメーカーに現場で補修をしてもらうことになったが、申請のやり直しが発生。申請の許可が下り、補修工事が開始できたのは2021年10月。納期の9月が過ぎてしまっていた。

プラントは稼働して価値がある
家族に誇れる仕事

納期に間に合わせたいと最大限の努力をしたが、申請の許可が下りない以上、補修工事はできずなす術がない。いたずらに時間が過ぎるこの時期が一番辛かった。
プラントは一人で建設できるものではなく、関係する大勢のメンバーが助け合い完成するものだ。プロジェクトマネージャーとして、メンバーの仕事の満足度をどう高め・維持させるかを考えさせられた。
補修工事完了後のプラントが完成したのは2022年4月。当初の計画より7ヶ月遅れていた。ありがたかったのは、完成時に顧客から労りのお言葉をくれたことだ。考えうる対策をすべてやり切り、最大限努力した姿を理解してくれたからだろう。何より、完成したプラントの性能に満足してくれたことが大きい。たまたま初期のトラブル対応で、プラントを訪れた時、設備が音を出しながら稼働している様子を見ることができた。建設時には冷たかった配管に手を触れると、中を流れる物質の温かさが伝わってきた。
プロジェクトのプロポーザル(見積、提案)段階から参画して、4年が経とうとしていた。それまでにあったトラブルの数々を思い出すと、目頭が熱くなった。
プロジェクトマネージャーとしてプレッシャーは大きいが、やり遂げた時の達成感が半端ない。晴れた日には会社そばの海沿いからタワーを望むことができる。ある日、タワーが見える場所に家族と行き「あれはお父さんが建てたんだぞ」と自慢した。「凄いね〜」と子どもが言ってくれたことが誇らしい。正直、心が折れそうになったこともあるが、一緒にゴールを目指したメンバーと励まし合い、チームとして成し遂げた。トラブルがあっても真摯に対応することで、評価を得る仕事ができる。最高の達成感を味わえた。

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