Story2

COVID-19
ワクチン製造工場
「一刻も早く」という
社会の願いに答える

誰も知らないCOVID-19ワクチン製造
大学時代の経験が生きる

入社後の研修が終わり、アサインされた案件がCOVID-19のワクチン製造工場の改造。かつてないパンデミックやロックダウンに見舞われ、世界中がワクチン開発を切望する中、いきなりCOVID-19関係の仕事に携わるとは思っていなかった。11~2月まで本社技術研究所内で、ワクチンの製造工程でpH調整を自動化するためのパラメータ実験をした。製造工程中のpH調整では、目的タンパクへのダメージを低減するため、pHの急激な変化は避けなければいけない。pH調整の自動化では、pHの変化を制御するためのパラメータが非常に重要なのである。調整システムは複雑かつ、COVID-19ワクチンに関する実験方法なんて確立されていない。上司に相談することはできたが、実験をするのは1人。天秤の上のビーカーで細かい調整をしながら、本当にできるのかと不安がつきまとう。
特に製造工程で出てくるバッファ液と、培地の組み合わせに苦戦した。pHの動きを滑らかにする干渉作用により、滴定曲線が複雑になりパラメータの調整が難航した。最初は曖昧だった組成も、3月には具体的な情報が顧客から共有され、それをもとになんとか調整を進めることができた。
研修では石油化学系を担当したので、そもそも医薬の領域ははじめてだ。大学時代に無機化学系の研究をしていた経験があり技術研究所の実験に抜擢されたが、会社に入って実験をするとは予想外。学生時代の経験がいきた取り組みであった。

シングルユースという新技術
すべてが初めて、必死にやるしかない

研究所での実験を終え、現場に入ったのは3月頃。改造工事はすでに始まり、機器備品の管理を担当した。今回の製造工程は「シングルユース」という方法を使っている。通常の設備は、ステンレス製の配管などを使うが、シングルユースはシリコンチューブやプラスチックバッグなど、使い捨てができる製品が用いられる。はじめて目にする物が多く、図面では見ていたが実際の工場の規模感に驚いた。
シングルユースの使用は工期の短縮に繋がる。国からの要請で一刻も早くワクチンを製造しなくてはいけない事情が読み取れた。シングルユースのデメリットは、使い捨てなので毎回取り付けの手間と費用がかかること。しかし、今回のパンデミックの様に、急に新たな設備が必要になった際に、固定の設備は動かすことができないが、シングルユースなら、機器の配置を自由に変えることができる。
シングルユースは新しい方法なので、まだ日本国内で知見が少なく、英語の情報しかないことにも戸惑った。そもそも機器が何かすらわからない状況なので、とにかく全てを学ぶしかない。シングルユースのチューブの種類や特性から、ポンプやフィルターといった基本的な設備まで、一つひとつ上司に教えてもらいながら、上司が設計した通りに進行をしていった。チューブの長さは適当か、サポートはできているか、初めてのことだらけで無我夢中だった。

試運転でトラブル発生
上司から「お手柄!」と称賛

6月になり、設備の組み立てがひと段落して試運転が始まった。ところが、ここでトラブル発生。設置した装置で流量が計測できないのだ。試運転前の適格性評価では問題がなかったのになぜだ?今回の案件で一番の困難にぶつかった。
直ちに装置をつくったメーカーに確認したり、流量計メーカーに部品を送って原因究明を急いだ。回答は、いずれにも異常無し、ポンプにも異常がなかった。なぜ流量計が正常に計測できないのか、問題になりそうな箇所を全て紙に書きだし、優先順位をつけて一つひとつ確認した。そして、流量計本体とチューブを接続しているセンサー部に問題があることが判明。センサーと流量計が上手く接続しておらず、留め具に不具合が生じていたのだ。適格性評価をした際は、チューブを繰り返し使っていたので簡単にはめることができていた。試運転となり、新しいチューブをはめ込んだ時に、堅さがあり適切にはまっていなかったことが原因だったのだ。計量メーカーも新製品で使用実績がなかった。技術的な問題ではなく、チューブがはまっていなかったためなんて…灯台下暗しとはまさにこのことだ。
原因を見つけた時はメンバー全員から「それだー」と声があがった。すぐに修正すると、しっかり稼働した。先輩や上司から「お手柄だよ!」と褒められ嬉しかった。機器の出荷時の検査にも関わっていたので、検査機器に問題があれば自分の責任だとひやひやしていた。原因がわかり正常稼働した時は心底ほっとした。

多くの命を救うワクチン製造
社会的意義を噛みしめる

その後はトラブルもなく試運転が順調に進んだ。通常は試運転までで納品だが、今回は顧客が進めるEng'g-Run(エンジニアリングラン)という実液運転テストにも立ち合った。何かトラブルがあったらすぐに対応できるように。とにかく一刻を争う案件なのだ。
無事Eng'g-Runは終わり自分が作った設備で、ワクチン製造の工程を見届けることができた。12リットル大のバッグに充填された原液が並んだ光景は感無量だった。このワクチンが何百万人の命を救うことができるのだ。
テックプロジェクトサービスに入社したのは、プラントのような規模が大きい仕事をしたいと思ったからだ。今回の案件は、設備自体それほど大きなわけではないが、世間を賑やかすウイルスから人々を守るワクチン製造という、社会的に大きな意義がある仕事。いきなりこんな案件に関わることができて、正直まだ驚いているが、社会のために役立つ仕事ができたという誇らしさも同時に感じる。
医薬エンジニアリングにおいて、今回のシングルユースは一般的になっていくだろう。トレンドとなる最先端技術を身に着けて、どんな医薬領域にも対応できるエンジニアになりたい。会社が推奨する「ISPE(国際薬剤疫学会)」という医薬、エンジニア業界が集まる会合に参加して、広く情報収集もしている。
思いがけない案件から動き出したエンジニアキャリアだが、達成感と将来の期待に満ちている。

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