バッチ生産から連続生産へ。業界の常識を変えるiFactoryプロジェクトの裏側

2026年01月27日働く人のアイコン働く人

医薬品原薬を含む機能性化学品の製造は、長年バッチ方式が主流でした。しかし、環境問題や労働人口の減少といった社会課題に直面する中、従来の改善だけでは限界が見えています。こうした背景のもと、テックプロジェクトサービス(TPS)が参画する「iFactoryプロジェクト」は、原料投入から反応、抽出、晶析、ろ過、乾燥、充填まで、すべての工程を一貫して連続生産することを実証する革新的な取り組みです。
このプロジェクトは、単なる反応工程の連続化にとどまらず、幅広い製品に対応できる汎用性を追求し、業界の垣根を越えた企業8社と研究機関1機関による共同開発で進められました。TPSは技術領域のリーダーとして、ゼロベースの設計と開発を牽引しました。
本記事では、この挑戦の最前線で活躍するプロジェクトメンバーに、開発の特徴や課題、そして挑戦の中で得られた成長とやりがいについて語っていただきました。

※本プロジェクトで開発した、連続生産システム「iFactory®」は、各工程(反応、晶析など)を立方体フレームに収めた「iCube™」の連結により、生産ラインを構築します。合成原薬連続生産システムについても併せてご参照ください。

インタビュー参加者

・M・Iさん(プロジェクトマネージャー)
・M・Hさん(主任研究者/プロセス設計)
・Y・Yさん(設備設計リーダー)
・K・Hさん(プロセス設計)

座談会メンバー

※2025年11月時点の情報となります。

M・I:プロジェクトマネージャー

1996年、東洋エンジニアリングへ入社。
医薬・化学・食品・半導体などの幅広いプラント設計に携わる。
その後、医薬関連プロジェクトのプロジェクトマネージャー(PM)として、低分子医薬品からバイオ医薬品まで、原薬工場の建設・改造・増設などの多様な案件をリード。
現在はTPSにて医薬分野のPMを務めるとともに、医薬業界団体の役員として、業界発展の貢献にも寄与している。
本プロジェクトでは、プロジェクトマネージャーとして、社内向けの工程・コスト管理、社外向けに協力会社間の調整・折衝を担当。

M・H:主任研究者/プロセス設計

1978年、東洋エンジニアリングへ入社。
石油・石油化学のプロセス設計を担当。のちにプロセス技術開発部において、保有プロセスの開発・改良や新プロセスの開発支援、スケールアップ・商業化に従事。
2000年以降、技術本部部長・執行役員・CTOなどを歴任し、技術戦略とマネジメントをけん引。
2016年のTPS移籍以降、シニアエンジニアとして、設備設計やプロセス開発支援を担当。
また、NEDOプロジェクト「原薬連続生産技術基盤構築」では主任研究者として、iFactoryのモジュール構成検討やiCube™のスケールアップ・スケールダウン、プロセス設計、試運転などをリード。

Y・Y:設備設計リーダー

2011年、テックプロジェクトサービス(TPS)へ入社。
国内事業部で原子力発電設備や、化学・医薬分野の機器設計を担当。
2016年のTPSへの業務移管以降、医薬本部や設備システム設計部の機器設計リーダーに着任。医薬分野における機器全般の設計に加え、連続生産設備やDI対応などの高度な要求に対応。
その後設備設計部部長として、開発機器の設計や、協力会社・社内の調整をリードし、プロセスとの整合性を確保する役割を担う。
iFactoryプロジェクトでは、機器設計の取りまとめを担当。

K・H:プロセス設計

2016年、TPSへ入社。
医薬分野のプロセス設計エンジニアとして、有機合成案件や高薬理活性原薬案件のEPCプロジェクトでの基本設計や基本計画に携わる。
2019年以降、設計本部にて、製薬向け連続製造プロセス開発のベンチプラント設計・開発を推進。抗生物質工場の設計・建設案件では、リードプロセスエンジニアとしてプロジェクトを牽引。
2022年から設備設計部に異動し、製薬向けフィルムコーティング機導入の改造工事に従事。
iFactoryプロジェクトのプロセス設計エンジニアとして、設計ベースの作成、フロー図や機器仕様書の策定、機器・計装品の設計検討を担い、モジュール化プラントの実現に貢献。

インタビュー

――初めに、iFactoryプロジェクトの概要を教えてください。

M・I:
医薬品や化学合成原薬を含む機能性化学品は、現在に至るまでバッチ生産が主流です。私たちは、これを石油や石油化学のプロセスプラントのように、連続生産にすることを目指しました。
多くの企業が反応工程の連続化に取り組んでいますが、私たちのプロジェクトでは、原料投入から反応、抽出、晶析、ろ過、乾燥、充填まで、すべての工程を一貫して連続化し、実証することを目標にしました。

――すべての工程を連続化するというのは、かなり大きな挑戦ですね。

M・I:
そうですね。しかも、機能性化学品といっても製品は多様です。特定の製品だけでなく、幅広い製品に対応できる汎用性を持たせる必要がありました。これは一社だけでは難しく、業界の垣根を越えた8社+1機関による共同開発という体制で進めています。

開発の難易度 ― すべてがゼロベースの挑戦

――プロジェクトにおいて難しかったことは何ですか?

Y・Y:
このプロジェクトで非常に難易度が高かったのは、次の3点ですね。

  1. ゼロベースからの装置の開発
  2. 幅広い製品に対応する汎用性
  3. 決められたサイズの“箱”に機器を収めるという制約

――まず、ゼロベースという点について教えてください。

Y・Y:
何が違うかというと、やはり手探りの部分がすごく多かったんです。世の中で売られているものがほとんどなく、やったことがないことばかり。通常のプロジェクトなら既製品を使えますが、今回は“こういうもの作れますか?”というところから始まりました。
プロセス側から「こういう機能が必要」という声が上がったら、その機能を保有する協力会社を探し、技術として組み込みながら設計・製作へと進めていきます。仕事の流れ自体は普段のEPCと似ていますが、中身はすべて設計からスタートでした。協力会社と開発することも多くて、まさにゼロからの挑戦でしたね。

――汎用性を実現する上でどのような点が難しかったのでしょうか?

M・H:
私たちプロセス設計が一番苦労したのは、汎用性とサイズ制約の両立です。iFactoryの要素になる“iCube™”は、決められたサイズの四角い箱の中に装置を押し込めないといけない。その上で、様々な製品に対応できる汎用性も求められる。さらに、モジュール化しておかないと成立しないという条件もありました。
プロセス側で「こういうふうに作りたい」という理想がありますが、実際に設計してみると入らないんです。道路輸送の制約もあって、横幅や高さは決まっている。だから、どうしても“ぎゅうぎゅう詰め”になってしまいます。

K・H:
設計では、まず3Dで配置して入るかどうか確認。入らなければどこかを縮めるか、置き方を変えるか、場合によっては斜めに入れることもありました。縦に入れると高さがオーバーするので、斜めにして収めるとか。本当にパズルのような作業でした。

Y・Y:
まさにその通りです。3つ目の難しかった点につながりますが、モジュール化された箱のサイズは決まっていて、その中に必要な機器をすべて収める必要がありました。既存の機器では絶対に入らないため、小型化しながら性能を落とさない設計を考えなければならなかった。社内の各設計担当だけでなく、協力会社との調整の数も膨大で、“このサイズでこの性能を出せるか?”というやり取りを何度も繰り返しました。

K・H:
設備設計側で3D設計に取り組む前に、M・Hさんと「これは入るか?無理か?」「あと数センチなんとかできないか?」と、何度も議論しました。プロセスの要求が絶対条件なので、設備側が「もっと小さくできる」と言っても、そこは絶対に縮められない部分もありますし、逆に「ここはもっと小さくしたい」という要望もある。サイズ決めは本当に頭を悩ませるところでした。プロセスの要求を満たしながら、箱に収めるためにどこまで調整できるか。ここが設計の肝でした。

M・H:
さらに、エンドユーザーとの調整も欠かせませんでした。オーナーサイドの要望を聞くためにヒアリングに行って、バッチでやっている工程を連続化した場合、どういう順番で並べるかを一緒に検討しました。キューブ1個の中に収めるという問題もあれば、部屋全体に収めるという問題もある。本当に入らないという現実がある中で、どういう形にすれば良いかをエンドユーザーと話しながら決めていく。設計だけでなく、現場との協議が重要なプロジェクトでした。

やりがいと成長 ― 前例のない挑戦がもたらしたもの

――プロジェクトを遂行する中で一番やりがいを感じた瞬間は?

M・I:
やはり、複数社の共同開発で複雑な調整を乗り越えたときですね。社内外で課題が次々に出てくる中で、解決策を見つけて開発方針に反映できたときは達成感がありました。特に、最初に描いた構想が形になって、実証試験で動いた瞬間は「やっとここまで来た」という思いでした。

――設計の皆さんは、やはり製品が出来上がった瞬間が一番ですか?

M・H:
今回動かしたのは、プロセスの中でも晶析工程です。結晶を出して、それを製品にしていく部分ですね。対象のiCube™が設置されて運転を始めたんですが、最初は本当に大変でした。連続化して長時間運転するのは、詰まりとの戦いなんです。
あちこちで詰まりが発生して、徹夜で対応することもありました。でも、最後に乾燥された製品がポッ、ポッ、ポッと出てきた瞬間、「やっとできた」と実感しました。記念にその製品を梱包して、関係者で記念撮影をしたんですが、そのときは本当に達成感がありましたね。

――K・Hさんは現場にも行かれたんですよね?

K・H:
はい。水運転でポンプを動かして、ちゃんと動いているか確認したときは安心しましたね。最初はどんなものができるかイメージしづらかったのですが、最後にちゃんと動いていることを確認できたときはやりがいとともに大きな安心感を覚えました。

Y・Y:
機器設計では、制約だらけの中でどうやって性能を維持するか、本当に頭を使いました。協力会社と一緒に「このサイズでこの性能を出せるか?」と議論した物が、実際に形になったときは感動しましたね。普段の設計よりも高度な工夫が求められたので、設計力が鍛えられたと思います。

業界を動かす一歩、そして未来へ

――プロジェクトを振り返って、どんな意義があったと思いますか?

M・I:
多くの企業が開発に取り組んでいるものの、商用化はまだ進んでいません。その中で、私たちが先駆けて実証テストに成功したことは、業界全体の背中を押すことにつながったと思います。これは、今後のTPSのビジネスや、TPSが出資している株式会社iFactoryの事業にとっても、極めて意義深いプロジェクトでしたね。

M・H:
今回の実証は、まだ中間地点です。真の意味で達成感を得られるのは、このiCube™のシステムが商業化され、どこかのプラントで動き始めたときでしょうね。一号機が世の中に出るときが、本当のゴールだと思います。これからも、製品化に向けてTPSとしても一緒に取り組んでいきたいと思っています。

Y・Y:
社内の開発者や若手社員に“何かにチャレンジすることの醍醐味”が少しでも伝わればうれしいですね。TPSの強みの一つは、お客様の困りごとを装置開発で解決してきたことです。その文化やマインドが、今回のプロジェクトを通じて、社内にさらに醸成されることを期待しています。

K・H:
今回の経験で得た知見は、次のプロジェクトに必ず活きると思います。制約の中で工夫する力、協力会社との協業力といったスキルは、TPSの強みになるはずです。実際に、現場での対応や設計の工夫を通じて、チームとしての連携力が高まったと感じます。こうした挑戦が、私自身の次のステップにつながると思います。

この取り組みは、環境負荷低減や生産効率化といった社会課題の解決にもつながります。
TPSは、技術で社会をより良くするという使命を胸に、お客様の課題解決に向けて、ゼロベースで考え抜く技術力を誇りに、これからも新しい価値を創造し続けます。

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